純度の高いものが好きだ
それは僕にあるのかないのかわからないもので
欲しがっているもので
避けて通ろうとしているもの
100%振り切ったら
それがどちらにせよ
バランスが悪くて倒れてしまう
片足だけで歩けないのと似ている
もし片足だけで歩く事が出来たのなら
感情は希薄になる気がする
それでも純度の高いものが好きだ
研ぎ澄まされたリアリティが好きだ

彼女は入口、僕は出口を

彼女がひろげた入口を前にして
僕はいつも出口を探したがる
冷たい道の上でひねくれてかじかんでいた
街灯に集まる真っ白な蛾たちを見つめ
まき散らされた鱗粉で汚いところを隠したりした
遠くの山に火が見えて
目指すところのような気もするし
ただの誘惑にも思えた
彼女は僕を待ってくれているだろうか
きっと怒るだろうな
それでも彼女は僕を許してくれるだろう
目の前で言うことがなんにもないような僕は
それが怖いと思っているんだ
電信柱の影に幼い頃の姿
「よく出来た人形だよ」
まったくだ

僕の信じることは賭けることに似ていた
恐怖、この震えが1つの音になっているんだな
ならば彼女は音を消してくれるだろうか
歌がうまいからもっと歌えばいいのにと言うと
彼女は歌わない

出口がどこにもないことは知ってる
嫌になるほど考えてきた
未だにロックンロールは僕に都合よくささやくから
夜中に家を飛び出したりする
本当はもっと言いたいことがあると思う
何も隠さず彼女の入口に飛び込みたいのに
僕は冷たい道の上でひねくれてる
いつまでも作業が終わりそうにない工事現場を眺めてる

気の弱い悪魔

暑さはたった1つの音しか出さないみたいだ
その音は不愉快にジリジリと近寄ってくる
表通りにパレードが来て
子供たちが叫びながら手を振っている
なにかください 良いものを
太鼓をどんどんと叩いて
なにかくださいな
閉め忘れた蛇口がすすり泣いている
薄暗い影に隠れて
汗は出るのに涙はでない僕だから
あんなに待ち遠しかった陽の光が
今ではとてもうっとうしい
胸を裂いて心臓に聞いてみたい
本当の気持ちを隠さないでね
きみは大丈夫なんて言えない
だから僕はなにも言えない
ある呪いの中にいる
瞳が真っ黒になっていく
そんな悪魔の絵を見たことがある

やさしい世界

ほんの小さなズルさを噛みしだきながら
ぼくはどんどんズルくなってゆくような気がした
うずくまり、自分の手のひらしか見れなくなって
自分の行く先を自分で決めれなくなっていた
そうして迷い込んだ森の中にはやさしい世界があり
そこにはやさしい人たちが住んでいて
大きな木の下の木漏れ日の中で話をしていた
やさしい人たちを弱い人たちと言う人もいたが
やっぱりやさしい人たちだとぼくは思った
たくさんのいびつなオブジェに囲まれながらぼくはたくさんの話をした
木と話せるという人や、天使が見えるという人や
色々な人がいた。そして誰もが陽だまりのような顔をしていた
やさしい人たちには愛という言葉がなかったけれど
時折吹く風が代わりとなる役割を果たしていた
あの時ぼくはなぜそこから帰ろうと思ったのだろう?
いつの間にかぼくは立ち上がり家に帰ることを皆に告げていた
やさしい人たちは日が暮れても陽だまりの顔だった
ぼくを見送ってくれて、大きく手を振っていた
1人の帰り道ぼくはなるべく何も考えないことにした
ただただ歩いた。それでもちゃんと足は家へと向かっていた
やわらかい向かい風の中でぼくは感じていた
誰にも秘密だと思った
その気持ち

真夜中、

真夜中、僕は家を抜け出して
パジャマ姿で黒い川を眺める
そうしてひとりぼっちの中に
なにか真実を見い出そうとする

川底には目を閉じた裸の女が沈んでいる
七色の薔薇の花を口にくわえている
流れることも出来ない重さが彼女の
悲しさなのかな

真夜中、今は二時を過ぎた

魚たちは目を開いて泳いでいるので
僕は思わず話しかけてしまった
一枚ウロコを売ってくれ 一枚ウロコを売ってくれ
あなたたちのその美しい鎧を

魚たちはそれは出来ないと言った
だが野性の海の想い出を語ってくれた
眠そうな魚たち 目を見開きながら
行かなければならないところがあるという

真夜中、今は三時半

ああ、僕は手紙でも書こうか
小さな舟に乗せて流すんだ
手紙には「読んでくれてありがとう」と書こう
返事は期待できないからね

まあとにかく今は朝陽を浴びて
粉々になっていく吸血鬼みたいな気分だよ
それなら君に杭で打たれる方が
いいと思ってるんだよ

真夜中、もうすぐ夜が明ける

だから未だ青い春

叫びだしそうな想いの生まれたところと行き着く場所は?
校庭の隅で毎日生まれたり死んだりする生き物は
入学してから卒業するまで一歩も動くことはなかった
僕は花火大会を家から見ている
だから未だ青い春
冷たい雨が降っている
壊れてしまいそうな想いのきっかけと支えるものは?
ゴミがたくさん浮いた海にツバを吐いた
あきらめが僕を分解していくように感じた
僕は誰もいない電車に乗っている
だから未だ青い春
冷たい雨が降っている
濡れてもいいと思っている

彼:空っぽになった酒瓶を片手に持ちゆっくりベランダに出る。
彼:「友達の家になにか大事な物を忘れたような気がするよ。それは、いつも持ってなくちゃならないようなものだ。敬虔なクリスチャンにとっての十字架のようなものだ。だが、俺はもう戻れないんだ。帰り道を帰らされるんだ。家にはたぶん誰もいないさ。俺の部屋はあの日俺が出ていったままで、きっと暗く冷たい。俺はそこで忘れ物のことを思い出し続けるだろう。」
彼:ベランダから飛び降りる。
私:あわててベランダに行き見下ろす。
道路が一面が黒い川になっており、彼は古い木舟の上で仰向けになっている