祖父のこと

父方の祖父の身体がだんだんと弱ってきている。80も後半、当たり前と言えば当たり前である。頭は冴えてるし、元気に長生きしていることをすごいと思うしありがたいと思う。去年の末頃に祖父の高校時代からのご友人が亡くなってから祖父はめっきり弱り出したように感じる。数十年来の友人が亡くなるという体験は僕には無く、わからないことだが祖父が寂しいことはわかる。最近はほとんど寝たきりで僕や両親や祖母が介護している状況にある。祖母はほぼつきっきりだ。不思議なことに、寝てばかりの祖父の姿に見慣れると元気に歩いたり農作業したりしていた祖父の姿がうまく思い出せなくなる。僕が生まれた頃にはすでに祖父はおじいちゃんだったなんてすごいなと思う。あまりたくさん話したりはしたことがない。ただ僕が長い不登校生活を家で送ってきた間を含めるとかなりの期間同じ屋根の下で暮らしてきたことになる。不登校のときはもっと話してなかった。祖父は僕にどう接していいのかわからなかったのかもしれない。僕はまず自分がどうしたいのかわからなかった時期だった。

 

僕が両親のカフェを手伝うようになったことを祖父は嬉しく思ってくれているようである。25歳にもなってお小遣いをもらう僕。祖父が気持ちとしてくれたのだ。ありがとうと言ってもらう僕。ごはんを食べるときに祖父を抱きおこす。慣れない状況に少し居辛さを感じてしまいなにかあったら呼んでくれと言い戻る。本などで知った情報に頼ると、祖父はもう長くないのかもしれないと思う。本を読んでなくても姿を見ただけでもそう思う。両親も祖母もどこかでそう思ってるだろう。そう思いながらふと胸がいっぱいになる。朝が来てみんなが起きてくる中、祖父が起きないんじゃないか、などと思ってしまう。様々思う。僕は朝起きて今自分のやるべきことをやる。祖父に対して出来ることも。時間は平等に経っていく。そのみんな一緒だよという感覚をありがたく思う。

イバラのバラッド

「これはある悲しい一輪の薔薇の物語」と言いながら近づいてくる男がいた。花売りなのか語り部なのかよくわからないやつだと思った。スーパーマーケットの入り口には数十冊の"ライ麦畑でつかまえて"がtake freeのポップと共に置かれてる。横にはスプレー缶でこんな悪戯書きが書いてある「Happiness is a Warm Gun」彼女が見たらきっと怒るだろう。間抜けで汚い鳩たちは電線の上で素知らぬふり。僕もそれに倣う。空き地にあるテントの中からは煙が上がっている。中にいる住人たちが大声で淫らな言葉を発しながら笑ってるのが聞こえる。彼らにとってのジョークがとっても不愉快に思えた。風の中を無数の顔が流れていく。顔は口々に「だがお前には罪があるぞ」とささやく。「罪状は!」と強く問うと、なにも言わずに消えていく。嘲るような表情を残して。太陽はこらえきれず吹き出したようだが、僕が見上げるともうなんでもなくなっていた。まるで夢の中で終身刑を宣告されたような気持ちだ。僕の行動を妨げるように街の風景が移ろう。これは偉大な画家の壮大な息抜きなんだ。僕はある1枚の絵画の中で気付かれずにいる1つの点なんだ。凝固した絵の具。瞳の奥ですべてを語りたい。さあ、見出だしてくれ!風が追いかけてくる前に!

 

朝、慌ただしい駅の改札口で酔っ払いが一輪の薔薇に語りかける。「あなたはわたしのたった1つのカラフルです」薔薇はイバラで返答する。一滴の血が指から地面に落ちる瞬間、これはある悲しい一人の男の物語に変わる。

rock bottom

エンドロール流れたら
どんな曲をかけようか
きみがいなきゃ味気ない
たった1人?嗚呼!ただ1人

 

イカローリン生きてたら
汗も涙も血も見ると
きみがいなきゃわからなかった
忘れられたい? 嗚呼!忘れない

 

hey hey baby,いつものように
ロックンロールと歌ってくれよ
僕らは異なる心を持ってる
それぞれ一つのメロディなんだ

 

hey hey baby,死ぬほど綺麗に
ロックンロールと歌ってくれよ
僕らが異なる瞳で見ている
世界を瞬間繋げてくれよ

 

ロックンロールの底の方
ここにいるよと叫んでる
それが僕の歌だった
そんな歌が 嗚呼!ぼくだった

雲の隙間から黒い手が伸びてきて僕のしっぽをちぎってしまった
極彩色のハンカチが何枚も何枚も舞い落ちてくる
人々は服を着る意味をなくし
「死ぬまで踊り続けて」というタイトルのペーパーバックを片手に
街路樹に火を放ち、裸で踊りまくった
その様子を見ていた富裕層たちはあらゆる電子機器の充電をやめた
高速道路を走る車内にいるのは僕だよ
助手席に座っているのに運転手の顔は見えない
バックミラーばかり気にしている
どうも僕に用意された夜があるらしい
幼い頃1人留守番していた僕に誰かがそうささやいたのだ
だから懐中電灯にはいつも新しい電池を入れていた
古い電池はぜんぶ庭の池に放り込んだ
学校にいる先生は家に帰ることばかり考えていたから
僕は窓辺で校庭に目線でSOSを描いていた
クラスで飼っていたニワトリが鳴いていたのはそのせいだ
輝く瞳の残酷な子供たちの前で大人たちの顔のしわは身を寄せ合うしかなく
職員室の机の上で目覚まし時計が鳴り続けていた
自分がどこにいるのかわからなくなったとき
きっと探すのは入口ではなく出口
不思議なもんだ
そうだよね
どうして砂漠の生き物は砂漠で生きようとするんだろう
目が覚めても目的地に着いてないと考え込んでしまう
大して役に立たないことばかりね
僕は未だ旅の途中だからおしゃべりなんだ

生きていると、たった1つに憧れるんだ
海岸で希望の物が流れ着くのを待ちながら遠くの船に夢を投げていた
この途方も無い距離は手近なものだけでは数えきれない
瞬く星は何か言ってるのかと思っていたよ
僕にはずっとそう思えていたよ
帰り道がわかっているから帰らない
好きに選んでここに来て
何が好きなのかわからなくなって
いつの間にかボロボロの手紙を読み返している
元気ですかと尋ねられて
元気ですと快活に答えられたことがあるかな
どうだろう
ともかく実験を続けよう
説明書は最初から付いてなかったのかもしれない
それならそれで構わない
青い炎だってあるのだから
きみはブルーに悲しまないで

僕の狂った半分

僕の狂った半分が歌を歌いたがってる

僕の狂った半分が駄々をこねている

僕の普通の半分が落ち着くんだとなだめる

僕の普通の半分が狂った僕の手を取る

 

僕の狂った半分も 僕の普通の半分も

きみを大事に思ってる

きみを大事に思ってる

僕の狂った半分も 僕の普通の半分も

どちらも僕の全部さ

結局僕の全部さ