真夜中の水族館内を僕は歩いている。
仄暗い水槽の中を泡がブクブクと上昇していく。
目を見開いた魚たちがゆっくり泳いでいる。
僕は一番大きな水槽の前に座り込み、魚たちに問いかけたが
魚たちは知らんと言った。だがウロコ一枚一枚の価値を教えてくれた。
野性の海の想い出を語ってくれた。
眠そうな魚たち、しかし目を見開きながら。
「沖縄の黒い海」
いとこのYと2人で沖縄旅行に行ったとき一番印象に残っている景色。
崖の上のゲストハウスにて見たどこまでもだだっ広い海だ。
僕は深夜眠れず庭に出て真っ黒な海の彼方を見た。
そこに死を感じた。そして生も感じた。
海の波の揺れの中で小さなミジンコも大きなほ乳類も
削れ分解されていき、新しい命に生まれ変わると思った。
ゾッとした。ホッとした。沖縄の黒い海。
波は兵士たちの行軍の響き。始まりがあり終わりがある。
潮風に素っ裸にされた僕は寒くなって布団に潜って寝た。