からからの夏(八月大成)

読みかけの本をほったらかしたまま。気の抜けたソーダ水を捨てようか迷って。話半分でうなずき、やっぱり遠くの空を見つめてしまう。淡い雲の合間には、たとえば尾崎豊がいる。阿部薫がいる。チャー坊がいる。ただみんなこちらに背を向けている。なにも言葉を発しない彼らから孤独を感じるのは、僕の孤独を認めて欲しいからだろうか。いつの間にか雲の形が変わってる。完成図のない作りかけのパズルの上に寝転んで天井に毒突く。曲がり角から一本の角。現れたのは幻獣ユニコーン。背にまたがって指を吸っているのは僕。まぼろしなんかじゃ、ないんだぞ。きっと空き地に向かっているんだね。子供たちはそれぞれ自分のヒーローに救われたいはずだから。空の青を切り取ったら雲はどこにあるのだろう。ヤケドしそうな空白。僕の名前を呼ぶあの子は僕が宿題をちゃんとしてきたか心配してくれてるみたい。気味の悪い子守唄を聴きながら眠れない赤ん坊は言葉の出口を自分の中に探し始める。当たり前に隠れた嘘がちょっかいを出す。捨てられたゴミは自分の目線を自分では選べない。だからドブ川はやけくそに抱擁してる。ガラスの球体の中であきらめた人が冷たさに頬を当ててる。公園の鳩は石像に優位なのさ。海から生まれてきたはずが海水が目にしみるんだ。仮装し、火葬されることを仮想する人。QはAを後ろの方で待ってる。Zは誰も見てないのをいいことに眠りにつく。悲しい雪女はつららを持って脅迫したが、黙秘権の行使によりつららは解けてしまった。未知に生かされ、殺されて。暑さで干上がった頭脳の空洞で、ビー玉がからからと音を立ててる。念仏まがいのからからの夏。からからの夏。