hey hey,vincent

僕は公園の銅像の横に立っていた
身体をまとう青い絵具がなかなか乾かないので
ベッドに横たわることも出来なかった
そこで風のよく通るこの場所へ来たのだ
絵具に触れないよう気を付けながら姿勢を正し
なんとはなしに空を見上げては瞬きしていた
あまりに暇を持て余したときは隣の銅像に話したりもしてみた
両手に本を持ち、覗き込む銅像はこう言った
「ぼくは本当は目が悪いんだ。だから文字がよく見えるように
もっと本に近づきたいんだが、身動きできないんだ。」
僕は彼を気の毒だと思ったが、どうしてやることも出来なかった
どのみち絵具が乾いていない今、僕も下手に動けない
僕の青には少しの違う色も混ざってはいけないんだ

強い風が雲をどんどん移動させる
流れてきた大きな雲が太陽を隠し、辺りは急に薄暗くなった
僕が公園にある運動場に目をやると
そこにはヴィンセント・ヴァン・ゴッホがいた
彼は絵描きのくせに画材一つ手にしておらず
隠れた太陽がある場所をじっとにらみながらこう言った
「おれは自分自身にこらえている」
つぶやくような口調なのに、それは公園に響き渡る音量で聞こえた
そして太陽が雲から顔を出した途端、彼はいなくなっていた

「ああ、ヴィンセント。あなたは速すぎたのだ。
あなたの言葉は私たちの耳に今頃届き、あなたの絵はようやく私たちの目に入った。
そして、ヴィンセント。あなたの中にある力は強すぎた。
その力をあなた自身も扱いきれなかったのだ。ヴィンセント。」

僕の青い絵具は未だ乾かないままだ