どこででも雨を降らせる人

日記。お母さんとわかりあうことはないだろう。お父さんとはわかりあえっこないだろう。僕はいよいよ1人だと、もう何回思ったことだろう。雨の日だって構わない。窓を開けて寝るだけだ。僕を見ている目があって、そいつがいよいよ眠そうだ。誰1人いない街の中なら、傘を差さずに歩くかな


若さというのは尊くて、貴重な時間に違いない。僕はそれを持て余しているに違いない。10代の頃、夭折した少年少女たちの手記ばかり読んでいた。死に憧れてたわけじゃない。何かに必死になったこと、僕には一つもなかったから。ぽっかりあいた穴からは、ひゅーひゅー風の音がした。それが気になって仕方なかった

 

今までばら撒いてきた星々は、数えきれないほどだけど、それらを結んで絵に出来ない。夢を抱けず暮らしてる。最初の火種が生まれない。昔の人は偉かった。最近の若者はだらしがない。

 

突然の夕立に傘はない。高架下まで走って行こう。きみは先に辿り着き、笑いながら振り返る。僕の姿はどこにもない。雨はすっかり止んでいて、傘はもう必要ない

ときめきは星の爆発

日記。僕の知らない僕を見た。僕は怒鳴るように歌を歌い、削り取るようにギターを弾いてた。あんな僕は見たことなかった。なぜだかとても悲しそうだった。足早に店を出ていく僕を、僕はピアノ椅子に座りながら見送った。その時店内に流れていたラブソングは、流通した感傷を型取っただけの贋作だった。慈しむ心があるのなら、もっと言葉を交わすべきだよ。もっと触ってやるべきだよ。子供の天使が梁にまたがり笑ってた。プラスチックの涙が出て、僕はそれをちゃんと燃えないゴミの方に入れたんだ。

 

2人の男女が恋をして、神話に倣って一番高い塔の前で別れた。恋は少なくとも男の方を変えたようだった。履き慣れていない靴のせいで、男は足を引きずるようにして海へ向かった。海に目的があるのではなく、海へ行くことが目的だった。ふと、ポケットの中で止め忘れたストップウォッチが、膨大な数字をカウントしていることに気づいた。何の損害があるわけでもないのに、男はあわててストップウォッチを停止させた。その時、1つの世界が終わりを迎えた。何1つ、次へ進むことがなくなった。南無三。

 

ときめきは星の爆発で、いつの間にか胸の中に灯る光だよ。1度生まれたその命は、その人よりも寿命が長い。墓の下で、土の中で、棺桶の中で、光り続ける神秘の輝き。やがて夜空が恋しくなって、地上にこっそり現れる。そいつが古来より伝わる人魂の正体さ。

 

苦、擦り切れても

日記。やり場のない言葉が毒に変わる前に。手塚治虫火の鳥の、何編だったか忘れたが、罪を犯した女剣士が山奥の寺の尼僧になり、その寺から一生出れなくなる話がある。出れなくなるどころか、おんなじ生涯を永遠に繰り返させられるという恐ろしい話。僕は時々自分の生活をそんな風に感じてしまう。神さまみたいなやつを、卑怯者に思ったりもする。けど、僕は飛べない運命の中にいる。早いとこ重力の下で楽しむ術を身につけよう。生き物を繋いでいるのは生というより、死という結末なのかもしれないと、別に本気で思ってるわけではないんだよな。

 

「洗脳」という字を不思議に思う。他人に毒され利用されるイメージなのに、なぜ脳を洗うなんだろう。ジョージ・ハリスンの遺作は「Brainwashed」だったっけ。ジョージの歌う愛はとっても静かだ。彼は心に平和を求めたビートルだった。

 

友達と電話した。友達は電話の向こうでお酒を飲んでた。電波の中にレモンを感じた。暗い気持ちになる曲を、好き好んで聴かなくなったという話をした。イニシエーションで良かったと。僕たちはもうそこにいない。そこにいた僕たちは、少しの霊感を失い、少しの気楽さを覚えた。僕が家出したとき、夜通し歩いてつけた足跡が、今もどっかで歩き続けているような気がした。あのとき僕に声をかけてくれたのは、ホームレスのおじさんだけだった。

 

無性に日の出を見たくなり、朝まで起きていた何日間があったっけ。夜明けの時刻にはもう眠たくて、朝陽を前に疲れ果てた僕はまるでドラキュラ伯爵のようだった。Lou ReedのPerfect Dayを聴きながら、山の向こうに未来の恋人を描いていた。朝も昼も夜も、僕は僕を失わなかった。狭い世界のお城の中で、イバラの無い薔薇を育て上げていた。その種はもう手元には無い。

 

僕は家族の中でおばあちゃんに一番やさしいと思う。もうイライラすることもほとんどない。おばあちゃんは美空ひばりの歌が好きだ。僕も美空ひばりの歌が好きだ。歌を聴いて感動するとき、歌っている人と話してる感じがする。自分の歌に対する褒め言葉で一番嬉しかったのは「きみの歌を聴いてるときみの部屋にいる感じがする」だろう。しっくりくる、嬉しい言葉だった。部屋で作って、ライブハウスに歌いに行くんだから

僕はまだ一度も消えたことがないんだ

日記。ASKAの曲に「月が近づけば少しはマシだろう」という曲がある。僕は雨が降ってくれたら少しはマシだろうと思うことならある。しかし、雨が降るのはあり得ることでも、今すぐ月が近づくなんてあり得ないことだ。そんなあり得ないことが起こったとしても、少しはマシなだけなんだ。ああ。嗚呼の方がいいか。自分以外に期待してるうちは変われっこないや。結局誰もが前提としてひとりという経過報告、そして月には誰もいない。それが11番目のアポロの報せ。言葉があって良かったね。けれどもなんにも言えないぜ。

 

頭の中が静かすぎるのも厄介なものだ。なぜだか涙が出たりする。まるで自分の鼓動にいちいち感動してるみたいだ。忙しい方が良いんだよ。隙間があるとロクなことを考えない。余裕を持つことが僕を暗くさせたりもする。火の起こし方も知らないで、漠然と死を望んでみるのか。太陽をじっと見つめてみる。真っ白な闇。

 

飼い猫が一緒に寝てくれなくなったのはなぜだろうな。母親に懐き始めたのは、なぜだろうな。なにか思い出したことがあるのかな?僕はもう子供の頃をあんまり覚えていやしない。自伝なんか書けやしない。本の分厚さを見ただけで、読む気がなくなってしまうようになったんだ。飴玉おくれ、ハッカは除いて。

 

久しぶりに部屋にロックのポスターなど貼った。死んだ人たちばっかりだ。殺された人だっている。大げさなやつに巻き込まれてしまったのだ。むかし思いついた小説に「ロックンロール島に行った話」というのがあるのを思い出した。夭折したロックミュージシャンに憧れる少年がいる。彼は20歳までに自分は死ぬと漠然と考えている。ある日、学校を休んでいよいよ自殺を決行しようとする。だけど怖くて出来やしない。家に戻るにも戻れず、飲まず食わずでついに倒れてしまう。そして変テコな夢を見る。どこかののどかな南の島の浜辺にいて、賑やかな声が聞こえる。死んだはずのロックスターたちが仲良く宴会をしている。酒に酔っ払いながら、鍋とかつついたりしてる。少年は歓迎され、輪の中に入る。憧れのスターたちに会えて嬉しい気持ちを抱きつつも、あまりのだらしない姿に段々と幻滅していく。そして寝ているジム・モリソンの顔に落書きして、舟を漕いで島を脱出する。目が覚めた少年は、それから普通に学校に通って普通に社会人になる。ロックはずっと好きだけど、ロックンロール島で会ったロックスターの音楽を聴くと、思わず笑ってしまうようになる。そんなお話。

 

最近、自分を鼓舞するために使う言葉。僕はまだ一度も消えたことがないんだ。それが事実。もうなにも言うことがない。けれども口がついている。退化してなくなるまでには時間がかかる。意味のないことがあるだろうか?他人に言われるまでもねえ。馬鹿げた質問をされたなら、おまえの頭で考えろって言う。それは僕にも有効だよ。

 

僕はキャッチボールがしたいんだ。僕が投げたぐらい、それ以上の速度で投げ返してほしいんだ。場所ならどこにでもあるからさ。遠慮はいらない、やってくれ

 

忘れてしまうから書いているのではなくて覚えていたいから書いている


くるり-Remember me / Quruli-Remember me


日記。僕というやつは僕にとって一番厄介な存在だと思う。それが大半占めている。雨の中で唄うことより、曇り空の下で唄うことの方が難しいかもしれない。鍵はあるけど扉がない。でもどっかにはあるはずさ。あの人たちもどっかで暮らしているはずだ。今日はたくさんギターを弾いた。いろんな曲を弾いているのにずっと一つの音を弾いているような気がした。灯りを一つにして目を閉じる。祈りは僕を自由にしてくれる。思い出した記憶の中に誰かがいるとほっとする。足取りは軽く、魂は重く。昨日にいる限り、明日はいつも明るいものだ。

年を取るってどんなだろう。結ばれた恋の味わいとは。さあね。そういうのは自分で感じていくものだよ。いろんなスピードがあってな。おまえはおまえで行けばいい。行きて愛せとおまえに命ずる。目の前にあるものを出来るだけ見つめ続けてみるのさ。愛よりもっと良い夢見るには、自分の生き方に夢中になることだ。

心の一番きれいなところ


永遠の光 田辺マモルとラボ・リボルバー


日記。僕は雨が好きだ。あとラブソングが好きだ。だけどいつも雨が降っていては嫌だし、ラブソングばっかり聴いているのも退屈だ。

むかし友達と行ったバーでの出来事を思い出した。お客さんは僕たちの他に上品なおばあさんが一人いただけ。そのおばあさんは急な土砂降りの外を見て「わたし、泳げないから帰れないわ」と言っていた。あまりにドラマチックだったのでよく覚えている。それから僕と友達は走って帰った気がする。それはそれで一つのドラマだっただろう。

初恋の話をするのが好きだった。初恋の人のことを毎日のように思い出していたことがあった。けどもうほとんど思い出さなくなっていることに気付く。別に錆びついているわけではないが、磨く必要は無くなったのだ。トンネルを抜けたところ。霧の向こうの不思議な町。長い長い素敵な夢を見た。

友達が家に泊まりに来たとき、一番早く目が覚めるのは決まって僕だった。カーテンを開けるかどうか迷いながらぼーっと天井を見ていた。僕より先に目が覚める人と一緒に寝たい。


草原にて君を待つ

さいげんなく
ざんござんごと
雨がふる
まっくらな空から
ざんござんごと
おしよせてくる

ぼくは
傘もないし
お金もない
雨にまけまいとして
がちんがちんと
あるいた

お金をつかうことは
にぎやかだからすきだ
ものをたべることは
にぎやかだからすきだ
ぼくは にぎやかなことがすきだ

さいげんなく ざんござんごと
雨がふる
ぼくは 傘もないし お金もない

きものはぬれて
さぶいけれど
誰もかまってくれない

ぼくは一人で
がちんがちんとあるいた
あるいた

「雨」竹内浩三

 
日記。毎日雨が降ったり止んだり。湿気のせいか身体がいつもより重く感じる。しかし植物や動物たちにとっては恵みの雨なのかもしれない。今日も山道で野生の鹿と目が合った。黒曜石のような原始の瞳。まるで何か訴えかけられているような。僕はこう思う。「もう帰れないんだよ」(それってどういうこと?)無数に枝分かれした中の一つの先端で、僕はバランス取りながら雨雲を見つめてる。後ろには何も無いものと思え。

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「日照り雨」黒澤明

黒澤明の映画を次々と借りてきては観ている。カラーになってからの方がおもしろいと感じる。色彩のバランスや構図の取り方にはっとさせられる時がある。黒澤さんという人の想像力の豊かさ、それを形にするこだわりの強さに感動する。自ら描かれた絵コンテは凄まじいものだ。画集を何とか手に入れたい。

歌に出てくる"彼女"や"きみ"に特定の人を思い浮かべる。すると歌に終わって欲しくなくなる。だけども歌は終わる。ならばと自らギターを持って歌いだすけれど、もうそのときには"彼女"も"きみ"もそっぽを向いてしまってる。だけどそれすらメッセージのように思えてくる。出かけようぜ。

考えなければいけないことも、ふと思い浮かぶアイデアも、今の頭の中にはなんにもない。ただ線香花火の火花みたいなものがバチバチと散っていて、僕は黙ってそれを見てる。時折友達が現れて、僕に心無いことを言ってのけたりもする。なぜそんなことを言うんだろう?かと思えば自分の不安や悩む姿が馬鹿らしくなってくる。なんでもやってやればいい!僕はこうやって自分とお喋りし続けているのかもしれない。他人のような自分と。好きな人と話そうぜ。

しばらく実家を離れて暮らしていたが、ふと帰りたくなったので帰った。夏の光に緑が美しく映えて、僕の生まれ育った場所は初めて訪れる場所のようにさえ思えた。光がまぶしいほど音が無くなっていく気がする。沈黙に沈黙と名がつかない、必然的な静けさ。子供の頃使っていたハンモックを引っ張り出してきて寝ころんだ。緑は目を閉じていて、だから僕は安心していられたのだと思った。

僕は何かを待っているのかな?草原の上で。よく遊んだあの草っ原。傘を持って雨を待っているのだろうか。シロツメクサで作った花冠を持って、誰かを...。けれども待つのは苦手な方で、探しに行くのがいいだろう。その途中で降る雨なら、苦でもないだろう。