雨が降っている。雨が降っているときは、雨が降っていると書きたい。むかし読んだ誰かの本の話では、簡単なことほど書くのが難しいものらしい。わかるようなわからないような、けど書いてみたらわかるかもしれないから、雨が降っているときは雨が降っていると書いてみる。だから、僕のノートにはたくさんの雨が降っている。本当は黙っていたいのだけど、さびしくて悲しくて情けなくて、僕はなにかを話していたくなる。僕が作ってきた歌は、同じ話を違う日に話しているだけなんじゃないか。友達が欲しかったくせに、一人の時間が満たされていた10数年前に比べて、僕のひとりぼっちは痩せこけて、力無いものになってしまった。知った分だけ脳は肥え、なにかを成していった分だけ筋肉がつく。身体と心のバランス。心と脳のバランス。魂の重さ、足取りの軽さ。いつも今がすべて。今はこの色味のないくすんだ悲しさがすべて。そこから見える世界のなんと仄暗いこと。わけのわからなさ。わからなくなる夜があるんだ。今でも。どこにいても落ち着かないときが。

 

そう、なにか書きたい。僕はなにか書きたいけど、それもわからない。わかろうとしてはいるけど、わからない。ちょっと疲れてしまったがゆえに、することぜんぶ、意味がないように思えてしまう。それでいて人に対しては冷静になって、励まそうとする。スジが通ってないんじゃないか。10数年先にいたのは。弱いまんまの僕ではないか。

 

すっかり参ってしまった。僕は誰なんだ。もうこれまでのようにはいかないだろう。暗い足場を蹴り上げて、最後の旅に出よう。雨が止んだ。