安心

星を眺める。何も変わってないことに安心する。星の形も、それを眺める人の形も。確かめるために星がある。僕には時々そう思える。あんなに遠い場所に辿り着いても悩みのタネが増えるだけだろう。ピンチになる度に想像力がいかに大切かを知る。厳しい現実、欠けてくまん丸。好きなように星座を結ぼう。それが最もロマンじゃないか。互いを見つめ合うと喧嘩してばかり。おんなじ美しいが見たい。心に隙間をあけておく。いつかは神さま来て欲しい。こっちからでは行けません。暗い星を観測するのに「そらし目」という方法がある。目標の天体を視線の中心から少しずらして見る。網膜の構造上、その方が見えやすくなるらしい。真正面からにらみあっていても仕方がないんだな、輝きを見出すためには。

 

わたしたち、暗闇にだって落ち着いてしまう。いくら嫌で辛くとも。変わらないことは楽だから。雨が降れば言い訳できる。そうやってその場しのぎで継ぎ足して、時間は長くはもたないだろう。僕は安心できないこと知っている。よく見りゃ穴があいていて、いつもなにかが足りない気がする

俺たちの身体を切り刻んで星にしろ

もう何年も前、とあるバンドのサイトで「俺たちの身体を切り刻んで星にしろ」という曲のタイトルを見かけたことがある。それが何という名前のバンドで、タイトルも合ってるのかどうか、もう覚えてない。曲調も。けれども時々思い出す。俺たちの身体を切り刻んで星にしろ。せめて俺にはそうしてくれ。ずいぶん勝手なことを言う。

世界は変わりつつある。なんて他人事のように冷静に言うことはできない。今までだって明日のことを考えるのは苦手だった。不安感は高まるばかり、どんな悪意ももう目にしたくない。僕の形はますます不安定、夜には溶け始めてくる。できることを考えてる。自分なりに試している。できるだけ。朝陽がいつもより意味深く見える。限りがあることを感じて、時計の音が気になってくる。頭の中に浮かぶのは、今まで出会ってきた人たちで、どうか無事でいてほしい。これも僕の勝手な願い。周りの人に迷惑かけてきたことばかり思い出す。なぜもっと自分の気持ちを話さないのか。僕にも不思議なことなんだ。

最近、目を閉じて見えるのは。誰もいない深夜の教会に透明なクロスをまとって跪く女性がいて、いや、女性かどうかもわからない、僕はその人を美しいと思って見ているが、恋心を抱いているわけでもなく、近づこうという気も起らない。ただ見ている。その人は火のついた大きな蝋燭の前から動かない。窓はぜんぶ開いていて、外から木々のざわめきが聞こえる。そして、永遠に夜明けがやって来ないような気がする...

調子はどう?元気ですか?元気ならなにより。毎日電波に乗っけて届けられる不安のかたまりを分け合う日々。誰もが残してゴミ箱行きに。その先のことなんて考えない。曖昧なことに愛はない。漠然としたものに釈然としない。まあ言葉遊びはこれくらい。窓を開けても苦しいね。電源切って月を見よう。知らないことが時には幸福。だから地球がでっかい亀の上に存在してるなんて考えてた大昔の人たちを馬鹿には出来ない。会いたいときに会いたい人に会えないなんてのはイカれてる。僕たちの荷物がいかに少なくても足取りが軽くても関係ないのだから。もう一度、元気ですか?元気ならなにより。なんでも話してくれたらいい。言葉を嫌いにならないでほしい。僕もそうする。出来るだけ。

先生。もし、僕が両親を心のどこかで憎み続けているとしたら、僕は僕自身をも許すことができないのではないか。それがたった一人になるということではないか。そうなりゃ僕の細胞ぜんぶが、僕を殺しにかかるだろう。ここはぬるま湯、または泥濘。力ない声と意味のない歌。鏡の裏で泣いている子供。雨は降る。僕次第さ

あの子が生まれた日


Mazzy Star - Fade Into You


もうすぐあの子の誕生日。好きな花は、以前に聞いたな。僕の中には小さなすみれ、むらさき色の小さなすみれ。厳しい寒さの冬にいて、どれだけ春を思い出せるか。希望のイメージはそんなとこから始まる気がする。ともかく死ぬまで続けるつもり。何をって、朝の窓を開くたび、ただそんな風に思うだけだよ。空にはいつもピアノが置いてあるけれど、誰もそれを知らないらしい。あの子が生まれた日、僕はなにしていただろう。やっと言葉を覚えたくらい、走ればすぐに転けてた頃かな。転んで見つけた花の名前は、図鑑で調べて知ったのかな。膝から流れる赤い血を、怖く思って泣き出して。あの子が生まれた日、あの子はずいぶん遠くにいて、おんなじように泣いてただろう。お母さんなら知ってるだろう。僕はあの子の好きな絵本を、大人になって、読んで泣いたな。そこには泣くのをやめたあの子がいて、泣いてる僕を不思議そうに見ていたな。その時、小さな鈴の音が聞こえてきて、振り返ったら夕暮れで、僕は自分の影を気にしながら帰って、あの子に電話をしようと思った。どんな些細な出来事も、ぜんぶ伝えてみたかった。ぜんぶ伝え終わっても、また明日話せると思って。きっとそれが嬉しかったんだ。きちんとリボンが付いていた。生き物のいない水槽で、ポンプが動き続けてた。階段の踊り場の吹き溜まりには、誰かが落としたボタンが一つ。夜になった駅前は、その日の中で一番まぶしくて。あの子と僕の間にある、時間が変わることはない。僕がかつていた場所は、僕がいなくても動き続ける。そんな当たり前の出来事が、不思議で不思議で仕方ない。あの子が生まれた日、僕は僕で生きていた。たしかに言える、これだけは。あの子はとっても素敵な人さ

12月、ジョン・レノン

hello,sunshine.

久しぶりに空が晴れたよ

僕は庭に出て風に吹かれている

今頃僕の死んだおじいさんは

雲の上を歩いているのかしら


ああ、ジョン・レノン

12月になると僕は

ああ、ジョン・レノン

あなたの歌を聴いてる


雲の切れ間から

聴こえるイマジンのピアノ

あらゆる隔たりが褪せて消えていく

想像力は人と人を結びつける

きっとそれがヨーコの考えなのさ


ああ、ジョン・レノン

簡単なことというけど

ああ、ジョン・レノン

難しく考えてしまう


あの世とこの世を繋ぐパイプがあるなら

僕はおじいさんに話しかけるだろう

あれからこちらも色々あるけれど

僕なら大丈夫って言うだろう


ああ、ジョン・レノン

夢は終わってしまうけれど

ああ、ジョン・レノン

戦争は終わらないまま

ああ、ジョン・レノン

そんな現実の中で

ああ、ジョン・レノン

一年がもう終わるよ

おやすみ、ジョン・レノン

12月と共に

久しぶりに夢を見れた


The Velvet Underground - Ride Into The Sun (Good Quality)


店を出て、ちょうど歩き出したくらいから吹雪始めた。まだ暗い空の明け方の、四条大橋に立つ僕は、汽船の煙突のようではなかったか。全身真っ黒な格好をしてることに、家を出てから気がついた。雪は音を吸い込み、静かに動く河原町はカラフルな無声映画のようだった。帰り道の割には高揚していた。もうどうしようもない過去を、頭の左へ押しやっていた。見知らぬ誰かに手を振っても、振り返してくれるような気がしてた。そのような夜がたまにあり、最後は決まって一人だけれど、不思議と寂しくないものだ。しばらくじっと立ち止まる。そこに僕が焼き付くまで。いま橋から飛び降りても、下に舟があるかもしれない。そこには未来の恋人が乗っていて、目が合った瞬間、二人は旅に出るのかもしれない。まあまあ。ちゃんと帰りました。まぶたを半分開けながら、電車に遅れず僕は帰った。ダリの描いた時計を手に、子供みたいに弄びながら。久しぶりに夢を見れた