まだ乾き切っていない絵の具があるようで

中園孔ニさんという画家の絵を一度見てしまうと、しばらく中園さんの絵で頭の中が埋め尽くされる。どこかこの世のものではない風景を見ているような、異質で、けれども決して心地が悪いわけではない、とにかく不思議な絵。こんな感覚になった作品はなかなかない。いや、なかったんだと思う。中園さんという人はたしかにこの世にいた。それは25年というあまりにも短い年数だったけど。毎日たくさんの命が生まれては死んでいく、たくさんの見ず知らずの命が。別に知り合いだったわけでもない、亡くなってから彼の存在を知ったというのに、僕は彼とすれ違ったんだという気持ちになる。すれ違い、彼は濡れた服だけを海岸に残してどこか別の世界に行ってしまった。僕は、自分に特別な才能がないことに愕然としたまま、彼の年齢を上回った。そして中園孔ニの絵に出会った。

 

生きているだけでは風景だ。僕は風景のようにはなりたくない。生きている風景を描くのが人だ。描くということは生きていくことだ。生きていこうとすると、何かが起こる。この人生には何でも起こる。それでも描き続けますか?たとえなんにも描けなくても。

 

まだ乾き切っていない絵の具があるようで、それは僕を落ち着きのないものにするけれど、良しと決めたことならば、決め続けてみせろよな。これはそういうお話だよ