おめでとう

去年の夏、彼女と科学館のプラネタリウムに行ったことを思い出していた。解説員の話によれば、我々がいる太陽系は天の川銀河という中にあるそうだ。天の川銀河は50個ほどの銀河からなる「局部銀河群」と呼ばれる銀河のグループに属しており、一番近いアンドロメダ銀河までは約250万光年ほど離れたところにあり……途方もないスケールと難しい話に僕の集中力は30分も持たず、いつのまにか寝てしまっていた。どうやら彼女も眠っていたらしい。人間の一生の内の睡眠時間は約30年であり、100歳まで生きたとして、残りが70年。その70年を宇宙の研究に費やす人たちだっている。そうやって何代にもわたって積み重ねられた時間が、いつか宇宙の真理に到達する日が来るのだろうか。もちろんその頃には僕もいなくなっていて、骨もお墓も跡形もなくなってることだろう。そこまで考えて、考えるのをやめにした。みかんをもらったことを思い出し、腐る前に食べておかなければと、口にした。

 

今日、数年ぶりに再会した友達は、お母さんになっていた。気さくで優しい旦那さんと、生後半年ほどの赤ちゃんと、わんぱくな猫と幸せそうに暮らしていた。僕は今まで赤ちゃんと触れ合ったことがなかったので、少し緊張しながら抱っこさせてもらった。赤ちゃんはとても温かかった。手を握ると、とても柔らかかった。こちらを見つめている目を見ると、ちゃんと何かを感じていることがわかったような気がした。まだ言葉を話せなくても、泣いたり笑ったりして懸命に伝えていた。ふと、頭の中に「宇宙の希望」という言葉が浮かんだ。それはちっとも大げさじゃなかった。それは僕の未来の希望でもあると思えた。新しい光だった。こんにちは赤ちゃん。おめでとう赤ちゃん。泣いたり笑ったりして、たくさんお眠り。

 

帰り道は雨が降っていた。それはいつもの湿っぽい気持ちにさせる雨ではなかった。歩くたび、自分の身体の中で軽快な鈴の音が聞こえるような気がした。ジョン・レノンのスターティング・オーバーのイントロのような、鈴の音が。始まりは人生の中に何度もある

 

君がこの世に生まれてきたのは

深い深い不思議なわけがあるんだよ

もしも君がここにいなくなったら

この星もぶっこわれてみんな消えてしまう

長い間 きみは土の中にしゃがみこんで

じっと待っていた さあ今日は君の誕生日だよ

君は今日ここに生まれてきたんだよ

 

「おめでとう」どんと