恋人の眼や友達の声

友達が悪魔の顔に変わることがあったとてしても、恋人に天使の偶像を作るべからず。斯くして日は暮れなんとなく、遠回りをして帰ったなあ。ボロでもあるだけありがたい、靴の紐をしっかり結び、誰もいない雪原へ飛び出そう。そこに落っことした僅かな霊感を取り戻すために。気が付いた時には元通り、いやいや雪が解け切ってしまったのか。きみは無限の感覚を怖がってる。僕らには関係のない、そんなもの(永遠はまた別として) 太陽の、太陽よりもっと微弱で害の無い、いやしかし太陽の光が必要だ。まぶたの裏の闇の中、誰かが一心に手を振り続けてる。扉が一つ開いていて、彼だか彼女かわからない、その人はまとめた荷物を抱えてる。僕はもう少し一緒にいたかったような気がしてる。斯くして日は暮れ街には灯り、ここに夜は極めれり。恋人の眼や、友達の声。我が身のたてる衣擦れの音。愛の言葉は冷たく無惨。光について考えるとき、そこに言葉がないことに気付いた。何一つね。